Portfolio Interviews 03 PMFまでの5年間、揺るがなかった創造への欲求と確信──これまでの軌跡で未来を拓き続けるhacomonoの誕生と成長の歩み

( Profile )

株式会社hacomono 代表取締役 蓮田 健一様

株式会社エイトレッドの開発責任者としてX-point、AgileWorksを生みだす。2011年に震災で傾いた父の会社を継いだ後、介護事業に関わる中で、病気になる前の予防の重要性に気付きフィットネス分野に注目。2013年7月に株式会社hacomono(旧社名まちいろ)を創業し、業界で話題となる店舗のデジタル化を推進。2019年3月にはウェルネス産業向けバーティカルSaaS「hacomono」をリリース。

株式会社hacomono

( Interviewer )

「正解があるんじゃない、正解にするんだ」をテーマに注目スタートアップの起業家にこれまでの曲折を聞いていくシリーズ、第3弾はhacomonoの蓮田さんにお聞きしてきました。

蓮田さんはhacomono以前にも会社を経営されていますよね。hacomonoを起業するまでの経緯を教えてください。

もともとワークフロープロダクトのエンジニアやプロダクトマネージャーを長くやっていたのですが、途中で父の会社が倒産しそうになったので、私が経営を引き継ぐことになりました。

これまでの業界とは異なる介護や電気工事の事業でしたし、従業員も年上の先輩ばかり。経営のやり方も手探りでした。ただ、経営塾で学びながら必死に立て直していくなかで徐々に自分に合ったリーダーシップに気がついたり、経営の手応えや楽しさを感じ始めるようになりました。
それもあって父の会社が落ち着いたタイミングで「もう1度、自分のチャレンジがしたい」と思い、2013年に起業したのが今の会社です。

起業したとき、何を確信してスタートしたのでしょう。また、そのアイディアは何だったのでしょうか。

ITの力で日本中、世界中の人に貢献できる事業で大きく挑戦したいという想いはありましたが、創業時点では事業領域や何をするかを決めておらず具体的なものはありませんでした。
強い創造欲求やプロダクトを作れる自信に突き動かされて起業した感じでしたね。とにかく「自分たちで良いものを作りたい」というスタートでした。

そこから現在のサービスである「hacomono」をリリースまでには時間がありますね。

2013年から2018年の約5年間は大手の店舗事業者向けに伴走型の受託開発をしており、その他にいくつか自社プロダクトをリリースしています。

どのプロダクトも「これは良いものができた」という自信もあり、最初は話題になるのですが継続せず試行錯誤が5年間続きました。
例えば飲食店向けにモバイルオーダーやセルフレジを導入しても、結局、既存のレジを使っちゃうんです。いまでこそ普及していますが、当時は時代が早すぎて現場には定着しませんでした。
セルフサーブ型の日報のプロダクトもリリースしました。中小企業の社長や人事部が試してみようとなり約200社に導入されたのですが現場の社員には利用されず、半年後には大半の企業が離脱してしまいました。
EC向けのプロダクトやエステ向けの会員サイト/カルテプロダクトも開発しましたね。

エンジニア視点で良いプロダクトだと思っても、それを決めるのは市場やお客さんなんです。いま振り返るとタイミングが合っていなかったり、マストハブになり切れなかったプロダクトが多かったように思います。

その期間が約5年間続くというのは長いですね。事業運営の資金はどうされていたのですか。

10名ぐらいのチームだったので、伴走型開発の収益や銀行融資で持ちこたえていました。前職の経験からプロダクトが良くない状態で投資をしても無駄になることを痛感していたので、それまではエクイティ調達はしないと決めていたんです。
とは言え、資金繰りが厳しい局面もありました。リストラせざるを得ない場面も経験し、このときはかなり追い詰められていたと思います。

ただ、苦しいだけの時期だったかというと、そうではありません。
振り返ってみても創業当初からの創造欲求はずっと変わらずにありましたし、チームの皆も「また新しいプロダクト作るなら一緒にやろう」と5年間プロダクトづくりを楽しんでいました。 今でも当時のメンバーと話すと「すごく大変だったけど、やっぱり楽しかった」と言ってくれますね。

組織の維持も大変だっただろうと思っていたので、意外なお答えです。その創造欲求を持ち続けられたのは、なぜなのでしょう。

私と工藤(創業メンバーの取締役CTO)は「俺たちなら、いつかどこかのタイミングで伸びるプロダクトを作れる」という確信と自信がずっとありました。
工藤は前職の後輩で、私も工藤も前職で「良いプロダクトを作ったのに売れなかった時期」と「プロダクトがヒットし、業界No.1シェアに成長する時期」の両方を経験していました。この経験を工藤とは共有していたし、工藤の技術力を信頼し「俺たちなら」という自信は持ち続けていました。

あとはチームメンバーも大きかったです。私の自信に対しては半信半疑だったと思いますが(笑)、新しいものを作ることが心底好きなメンバーが集まっていました。
私から短い納期で高いレベルの要求を出すことも多く喧嘩になることもありましたが、いつもクオリティの高いものを作ろうと必死に応えてくれました。
そういう集団だったから目の前のお客さんに熱狂的に愛されるプロダクトを作ろうと、こだわり続けられたのだと思います。

ヒットプロダクトを生み出すチームとプロダクトの基盤要素が蓄積されていったのですね。そして、いよいよhacomonoのリリースとなります。

2019年3月にフィットネス業界向けに現在のサービスhacomonoをリリースしました。
初出展した業界展示会で多くの反響を得て、その場でいくつか契約を獲得しました。hacomonoにより受付業務の省力化とキャッシュレス化を実現した施設が業界ニュースで取り上げられ、その施設の見学会をすると集まった皆さんが感動していて「これはいける!」と大きな手応えを感じました。

30社程度に導入されMRRが約200万円になりました。ここまでチャーンは1件も発生せず、社長の自分でなくても営業メンバーだけで契約が取れるようになりました。 ここからT2D3(3倍を2年、その後2倍を3年継続する成長)が始まっていくわけで、MRRの水準としてはこれからでしたが大手企業も含め受注のパイプラインが大きく積み上がっていたこともあり、プロダクトの成長、PMFを確信し、ここでVCから資金調達しグロース路線に舵を切りました。

hacomonoとこれまでのプロダクトとは何が違っていたのでしょうか。

2020年のコロナ禍で非対面のニーズが高まっていたことは大きな後押しになりました。オンライン入会やスタジオプログラムの事前予約や決済など、これまでは対面でやっていたことの解決策が急速に求められるようになっていました。

またhacomonoは5年間に開発してきたプロダクトの機能や技術を応用したものも多いんです。ECだったり、toC向けの業務手続きや会員管理の機能だったり。そうした長年開発し続けてきた私たちのピースが一気につながったような気がします。

起業当初から「ウェルネス業界を変革するぞ!」というビジョンがあったわけではありませんが、「良いプロダクトを作りたい」と5年間も創造欲求を持ち続けていたことで、私たちのプロダクトと業界の課題と時代がたまたまうまくマッチしてくれたのだと思っています。
https://www.hacomono.jp/

hacomonoにはこれまでの軌跡が詰まっているんですね。その後は快進撃が始まりましたね。

COOやビジネスのマネージャー層にメガベンチャーなどで事業を伸ばしてきた経験がある優秀なメンバーが加わり、世界が一変しました。
定量的なKPIの見方やオペレーションの整備、マーケティングでのリード獲得などが加速度的に洗練されていきました。
T2D3の成長ステージを駆け上がってきましたが、私だけでは絶対できませんでした。彼らが加わってくれたからこそ、ここまで来られました。

その後、2024年にはFintech(決済)領域のサービスも開始されました。

Fintechサービスをリリースしたことでビジネスモデルだけではなく、顧客に向き合う社内の意識が大きく変化しました。
Fintechはお客さんの売上が上がれば私たちの売上も上がるモデルなので、お客さんの成功に執着するようになるんです。開発やカスタマーサクセスが、お客様の売上向上のために何をすべきか考えるようになり、機能開発や提案活動が進化しました。

そうした取り組みを通じて、今ではお客さんからの新規事業や新業態開発の相談が増えています。スマートシティ構想といった街づくりのプロジェクトにも関わるようになりました。
これまで取り組んできた様々なプロダクト開発、そしてFintechといった様々なピースであった点がつながり線となり、それが面に広がるような手応えを感じています。
https://special.hacomono.jp/

最後に、次世代の起業家へのメッセージをお願いします。

全てが順調に進む人なんていませんし、順調だけだとかえって弱い気がします。上手くいかないことや辛いこともありますが、それは起業家を強くさせてくれる宝物だと思って対峙できるとよいと思います。
そして、最後にものを言うのは健康です。心身が整っていれば、どんな困難も乗り越える力を持つことができます。ストレスでお酒に逃げたくなる時もありますが、運動や十分な睡眠でメンタルを整えておくことが困難を乗り越えるための鍵となります。

hacomonoのミッションにつながるような力強いメッセージですね!最初から正解があるんじゃない、これまでの軌跡と蓄積から今を正解にしていく、という姿勢そのものでもあります。ありがとうございました。

正解があるんじゃない、
正解にするんだ。


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