~Rubyまつもとゆきひろ氏、前ELLEgirl編集長の澄川恭子氏等、ビッグタレントが次々にジョインするVASILY社の秘密とは~
起業家は日々どのようなことを考え、どういう判断を元に行動しているのか。投資家の目線から起業家に間近に接していると、毎回様々な発見がある。
GMO VentureParntnersでは主要な投資先とインタビュー形式の対談を行うことにより、そのような起業家のリアルを浮き彫りにし、お伝えすることを試みている。
本記事では、ファッションコーディネートアプリ「iQON」を運営するVASILY金山社長に対し、VASILY社外取締役でもある弊社塩田がお話を伺い、さらには同社に対し定期的にUXコンサル支援を行っているGMO-VPデザインフェロー石橋氏も交えてVASILY社の真髄に迫った。
(インタビュー日時:2014年6月)
塩田:早速ですが、VASILYとiQONのご紹介からお願いします。VASILYの皆さんはiQONというアプリでどういう世界を実現しようとしているのでしょうか?
金山: 僕らは今iQONというファッションアプリの開発と運営をやっています。ユーザーさんがいろんなECサイトで販売されている商品の画像を組み合わせて、1枚のコーディネートをつくり、投稿して、それを軸にコミュニケーションだったり、新しい商品を発見したり、今何が流行っているかってことが分かり、毎日のファッションを豊かにするサービスです。これで僕らが実現したいのは、世の中の女性がもっとオシャレを楽しんでいるような世界を実現したいな、と思っています。
このサービスをはじめたきっかけとして、インターネットの爆発的普及によって、ZOZOさんとか楽天さんとか、Amazonさんさえも服を販売していて、ネットで服が買えるとこがめっちゃ増えたと思うんです。その一方で何を買ったらイケてるとか、どこで買ったらいいかとか、どういうふうに組み合わせていいかとか、そういうファッションの情報の部分がインターネットの中に全然多くないな、とも感じていて、そのニーズというのは、絶対にあるかなと考えたことでした。僕らはSNS的手法でそのニーズを解決してあげて、女性がよりオシャレを楽しめるような世界を作っていけたらな、と思っています。
塩田:その世界が確実に近づいている手応えみたいなのはありますか?
金山: そうですね、手応えはありますね。例えば電車とかカフェとかでiQONを使っているっていう人を見たっていうことを聞いたり、仕事とかでお会いする女性の方にiQONいつも使ってますみたいなことを言って頂けることが増え、体感的にもすごい感じてますし、数字の面でも相当来ているな、というのは感じていて。多分この記事が出されるころには登録会員数は100万人突破していると思いますし(2014年6月26日に100万人突破 )、僕らのサイト経由で生まれる売上も、1サイトで月に2億円くらい行っているサイトさんがあったり、スマホサイトのトラフィックの4分の1がiQON経由という話も伺っており、着実に、いろんなところでインパクトを出てきているのとは感じています。
塩田:ファッションとインターネットという組み合わせで成功したケースは、まだあまり例が無いと思うのですが、VASILYはなぜ実現できているのだと思いますか?
金山: 一言でいうと、プロダクトの企画開発力かな、と思っていて、3つポイントがあると思います。1つは、エンジニアリング。エンジニアリングって言ってもいろいろありますが、僕らが強いのは「どんな企画でも実現しようとあきらめないエンジニアチーム」の存在が大きいかな、と思っています。考えてきた企画を世の中に出すために常に前向きに考え行動し、結果として必ず実現するチームがいるので、企画を考える時、常識だったり、できるできないの実現可能性を考えずに、想像しうるベストな企画を出してこい、ってメンバーに言えることがでかいです。もともと実現する技術の高いチームだったのですが、最近は技術顧問としてRubyのまつもとゆきひろさんがジョインして、ますます他にはない強い技術チームがつくられてきていると感じています。
もう1個はデザインですね。デザインに関しては、僕自身がすごいこだわりがあるところです。こだわっているのには2つ理由があって、1つは、僕らがファッションのドメインでビジネスをやっているということ。やはりファッションブランドさんのブランドイメージを損なわないような、むしろイメージがプラスになるようなプロダクトのデザインはしていかないとビジネスパートナーとしては認められないと考えています。もう1つは、僕らのプロダクトの主戦場である、スマートフォンという存在。スマートフォンの世界になって、ださいアプリはもうダメです。愛されません。日本でスマートフォン、特にiPhoneの登場により大きく変わったことの一つって、自分が手にする製品に対する美意識だと思うんです。例えば、日本の家電メーカーさんなんかは、デザインにそこまでこだわりを持っている会社ってそこまで多くなく、結果として、デザインってスペックの次でいいじゃん、みたいな人達が多かったと思うんですけれども、僕ら日本人が一番愛しているスマートフォンであるiPhoneって、デザイン的にすごいこだわりがあるハードウェアなんですね。ハードとしても美しいし、その中で動くOSも美しい。その美しいデザインを活かすための、ソフトウェアのデザインっていうのをしていかないといけないかな、と。ハードウェアのかっこよさとソフトウェアのかっこよさがバランスしないと、中に入っているソフトウェアも愛されないんじゃないかな、と思っていて、僕らはiQONのデザインに非常にこだわっています。
最後は編集力、ですね。これは本当に最近身につけた力、なんですけれども。4月より澄川がエディトリアルプロデューサーでジョイン(前ELLEgirl編集長)して、これまで僕らが持っていた、製品の開発力というところに、編集としてコンテンツをどう見せていくか、というところも1つの強みとして加わったんじゃないかな、と思っています。もちろん、SNSとして、サービス側の編集コンテンツが無くても上手くいっているところもあると思うんです。例えば、FacebookとかTwitterには大規模な編集チームはいないですし。ただ、これも産業的なところがあると思うんですけれども、ファッションみたいな、割と分かりやすく世の中のムーブメントや流れっていうものがユーザーの消費行動に直結するような分野では、やはり何がイケてるかっていうところをしっかりとサービス側が指針を示して、ユーザーに提示していかないといけないかな、と思っていて。そこの部分で澄川という、実績十分の人間が僕らの会社に入って、しっかりやっているというのは、強みかなと思っています。
塩田: スタートアップでここまで豊かなタレントが揃っている会社は珍しいですよね。これからはこんな人と仕事したいみたいな、人材募集で優先順位の高いポジションがあれば教えてください。
金山:会社が成長しまくっているのでポジションは全部空いています!人事から、ディレクター、デザイナー、エンジニア、別に、社長も空いていると思っています。ポジションに関わらず僕らが一緒に働きたいなと思う人は、ハングリーな人、です。成し遂げたい未来とか、成し遂げたいものがある人、そしてそれの実現ために不断の努力を厭わない人と一緒に働きたいな、と思います。僕らってベンチャーで、本当に可能性としてはいろんな事ができるんですね。できるできないを決めてるのは、自分なんですよ。自分ができないと思ったら、できないんです。でも、できると信じていたら、できるんです。iQON立ち上げたばかりの時に、「こんなコラージュみたいなの、スマートフォンで誰がやるの?」って。「女の子は誰もこんなに細かい作業をスマートフォンでやれないよ」って、100人会ったら、99人が言ってたんです。そこで「女の子はこういうの好きですし、きっとやりますよ」って言ってくれたうちの1人が塩田さんだったんですけれども。僕らは絶対大勢の女の子がiQONをやると思ってたし、やらせるだけのものは作ってやるぞ、と。iQONを通じてファッションを表現し、世の中に発信するっていうことがユーザーにとっても世の中にとってもいいものになると心から信じているので、そこに対して本当に妥協せず追求し続けています。最初だれだって何かを始める時はゼロからなんです。ゼロから積み上げていくための方法やテクニッは教えることができますが、そもそもゼロから積み上げていきたい、という気持ちは教えることができません。そのためハングリーさを最重要視しています。
塩田: なるほど、その通りですね。それと先程デザインへのこだわりという話が少し出ましたので、石橋さんとのやり取りで印象深いエピソードみたいなものがあれば教えて頂けますか?(GMO-VPは投資先へのVAの一環として、デザインフェローの石橋氏によるUXコンサル支援を、ファンド設立当初から提供している。iQONのスマホアプリ企画時とその後のリニューアルの際も、同社と石橋氏の間で多くのやり取りが行われている。)
金山: 石橋さんとのセッションはいつも印象深いものですね。時間が許す限りやりたい、というのが本音です。VASILYにUIのプロフェッショナルもUXのプロフェッショナルもいますが、どうしても彼らの知識って荒削りというか、現場感満点でやってるのでまだ体系立っていないんです。ある意味クセっていうか、自分たちの経験の中でやっていることが非常に多くて、言語化できなかったり再現性のないものが時々混ざっていることがあるんです。石橋さんはそういったところの引き出しをすごくお持ちなので、僕らの中に眠っている知識や経験を秩序建てて整理してくれて再現性のある形で返してくれる。毎回のセッションの中でやればやるほど気付きがあり知識を積み上げていけている実感が持てるのでとても感謝しています。
石橋: そう言っていただけると本当にありがたいですね。僕自身が意識してやろうとしていることがまさにそういうことで、現場でいろんな試行錯誤をしていると、当初やりたかったことが薄らいでしまったり、何のためにやっているとか、今これは客観的にみてどういうやり方で自分たちやっているのかとか、見失ってしまうときが多いと思うので。そこに対して質問を重ねていって、言葉を引き出して、チームで考えていることが出てきたら、さらにちょっと無意識で、言葉になってない部分とかも引き出して。それを整理して返して、みたいなことで。そういうやりとりができるといいのかな、と日頃から思っていて。なので、非常に先ほどのお言葉はありがたいなと思いましたね。
塩田:デザインの話は、最近でこそ優先順位上げて語られるようになってきましたが、あまり意識されてない経営者の方もいます。VASILYは誰よりもその重要性を理解して、ディスカッションで終わらずに形のあるものにしてくれるので、私達もすごく嬉しいです。また、そのこだわりがあるからこそ、ベストアプリに選ばれるなど、社外からもそのクオリティが認められていますしね。
石橋: ゼロベースとしても、結局ノウハウとか、実際どうすればいいの、とか。結論からアドバイスが欲しいみたいに言われてしまうと、一応、それは専門家なので言えるんですけど(笑)言えるんですけど、その人達がそれをやるべき理由みたいなところと関係のないことしか言えないので、結局やってくれなかったりするわけですよ、その場では感謝されても(笑) 自分たちがなんでこれをしているのかっていう必然性みたいなところと紐付いた時に、アイデアっていうのが、コミットできるものになるわけじゃないですか。それに応えるためには、なんでこれをやっているとか、なんでこのやり方なのか、みたいな所を1回言葉にして、チームで共有して、その上でいろんなやり方あるけど、今これやるのはどうかな、みたいなそんな話ができたら、意味のある腹落ちしてコミットできるはずなので、僕も手前の観念的な話を通らないと、結局ノウハウだけ言っても、それにコミットしてもらえることがあんまりなかったりするので嫌なんですよね。でも塩田さんもおっしゃったように、観念的な話を受け入れる素養みたいなのは、やっぱりあると思うんです。経営者の人の中でも。それ言うと、金山さんはすごいな、と思いますね。なんかこう、マジメさとチャラさとかですね、思想と実績とか、なんかこう、ロジックとフィジカルみたいなところとかですね(笑) 対極の要素を併せ持っているところがすごい。バランス感覚というか、特に抽象的な堅い話とか難し目な話っていうのと、ある種トレンドとか、ブームとか、今の流れ行く話の両方を見ている人はなかなかいないので、いろいろお話していても、すげーなって思いますね。
塩田: じゃあ、次の質問ですけど、VCという経営資源を得て、何か感じられたことがあれば教えて頂けますか?
金山: 僕らはVC入れて悪かった点は1つもないです。資金面ではVCからのファイナンスを受ける前はiPhoneアプリの受託開発をやりながらiQONを運営していたのですが、VC資金がなければ経営資源をiQONに集中することができなかったので受託よりも可能性があり世の中に大きなインパクトを与える可能性が高いiQONに集中できる環境を作って頂けたのは、非常によかったなと思います。やっぱり、受託やりながら自社サービスの開発はなかなか難しかったです。もちろんできなくはないと思いますが、どう考えても、スピードが足りないです。いま僕らのいる経営環境は究極的に不確実なんですね。明日どえらい競合が出てきて、世の中を一晩で変えてしまうかもしれない。そういったそのリスクがある中、自分たちのできることのベストを出せていないままごまかしごまかしでサービスを運営している状況っていうのが一番いやだった。当初マネタイズもあんまり上手く行ってなかったですけど、そこに賭けさせてもらったっていうのは、すごく感謝しています。
あと、もう1つは、担当するキャピタリストの存在っていうのもすごく大きいです。僕らのファイナンスに関する基本スタンスなんですけれども、お金だけのVCっていらないんですよ。ちゃんとビジネスパートナーとして、ボードメンバーの一員として、対等以上の議論ができるかどうかを重視します。資金面抜きにして、塩田さん自体と一緒に仕事したかったというのは非常にあります。まず女性キャピタリストって珍しい。僕が知っている中で女性キャピタリストってのは、塩田さんともう一人しかいないくらいなので。僕らのサービスは女性向けファッションアプリなので、女性の視点も忘れてはいけません。残念ながら、塩田さん以外のボードメンバーは全員男なので、ともすればすごいあらぬ方向に行ってしまうところを、しっかりと女性視点でアドバイスをくれています。さらにそれは当然、ビジネスのプロの意見であるっていう。インターネットビジネスをたくさん見てきていて、酸いも甘いも経験されている方で、且つ女性視点っていうものは、なかなかそもそも日本で探してもいない。そういった稀有な存在として塩田さんが僕らのボードに入っているっていうのは、すごい頼もしいなと思います。僕らは、毎週金曜日GMO-VPさんの会議で9時から10時、経営会議という名の、アジェンダの無いディスカッションをやってるんですけど。僕とCTOは男ですし、他のボードメンバーもこれでもかってくらい男臭いメンバーなので、けっこうやっぱり変な方向行きがちなんですよ(笑)
塩田: 肉体も頭脳もマッチョですよね、もちろん良い意味でですけど(笑)
金山: 間違いないですね、本当に(笑)その中で塩田さんが、バランサー的に、あるべき方向に、あるべき方向からの問いかけをしてくれるっていうのが、すごい、僕らにとっては重要かなって思っています。
塩田: 人口の半分は女性なので、もっと、女性でマネージメントの視点を持った人っていうのは増えて欲しいと思ってますけどね。
金山: 間違いないですね。僕らも今在籍メンバーで40名くらいいるんですけど、半分以上が女性です。僕らは事業を成功させるために、女性視点は絶対不可欠なので、女性が上手く能力を発揮して、成果を出していけるような、会社作りということをやっていきたいと思っています。誤解を恐れずに言うのであれば、やっぱり日本社会は女性にとって働きにくいと思ってるんです。男性から見ても、なんかこう、大変そうだなって思うところがあるので。
塩田: 私が一番最初にiQONの構想をお伺いして、なんとしてでもこの人達を応援したいと思ったのも、1つには、ユーザーである女性が、ものすごく力を発揮出来る場を作ろうとしてるな、っていうのがあったんですよ。本当に個人個人が自分の得意なもの、好きなもので、表現することで力を得られる場所だと。それは既存のメディアと違う立ち位置で、ファッションの情報分野に革命を起こそうとしてるんだと理解しましたし、間違いなくユーザーの共感が得られると思いました。これからもその世界がどんどん広がっていくことを、誰より楽しみにしています。
金山:ありがとうございます。インターネットはただの道具なんですよ。道具を使うと人間って、道具を使わない人間より良くなれるんですよ。まったくネットと関係ないたとえですが、金槌という道具を使うと、素手で釘を打つより早く正確に力強く打てます。間違いなく。インターネットも本質的には金槌のような道具のうちの1つで、人間の持っている可能性を人が元々もっている能力と掛け算で大きくしていくっていうのが、あるべき姿だと思っているので、そういって頂けるのは嬉しいです。インターネットという道具を使ってファッションというジャンルで人間をどれだけ便利に楽しくしていけるか、これが僕らのテーマです。
塩田: じゃあ最後に、起業家を志す若い人達に何か一言あればお願いします。
金山: うーん、、起業家を志す人達?もう、すぐやったらいいんじゃないですか?(笑)多分、やんないと分かんないと思うので。準備してたら、準備してるだけで人生終わるくらい人生って短いので、もう起業家になりたかったらなってしまえばいいと思います。そのあと、道は開けると思います。だって、起業家になるのに、免許いらないですし、特別な資格もいらないし、だれでもなれる。すごいことだと思うんですよ!なので、起業家になりたければ、この文章を読んだ1秒後に起業家として人生歩んでいって欲しいなって思いますね。
塩田: 金山さん、石橋さん、貴重なお時間ありがとうございました!