
※本記事は、2026年10月20日発行の『週刊金融財政事情』に掲載された連載「FinTech+」第118回を、同誌の許諾を得て再掲載しています。
「普及と成長余地で先行するのは中南米で、アフリカが続く」。香港の「RedotPay」(レッドットペイ)の共同創業者ジョナサン・チャン氏は8月、ロイター通信の取材に対してこう語った。ステーブルコイン(SC)を日常の支払いにつなぐ同社の事業は、新興国にも広がっている。
背景にはSC市場の拡大がある。米シティグループの推計では、世界のSC市場規模は2025年に約45兆円に達したとされる。一方で、個人の日常決済でSCの利用を広げるには、支払いのたびにSCを売却し、銀行口座へ出金する手間をどう省くかが課題となる。
同社は、米ドル建てSCのUSDTやUSDCなどを保有するウォレットアプリと、クレジット/デビットカードを組み合わせて提供する。カードでの支払い時に保有資産のSCを法定通貨へ換えて清算するため、利用者が事前にSCを売却する必要はない。
特徴は、ビザの既存のカードネットワークを活用する点にある。SC決済において加盟店がSCを直接受け取る方式では、システムや資金管理の整備が課題となる。しかし同社の仕組みでは、加盟店は通常のカード決済での入金と同様に現金で代金を受け取る。利用者はSCを清算の原資として、従来のカードと同様に買い物を行える。
同社が公表する登録利用者数は25年11月時点で600万人超だったが、26年8月の報道では800万人超に拡大した。ウォレットへのSCのチャージ(入金)とカード利用を含む年間換算取扱高は、約2兆2,000億円超に達している。
レッドットペイの事例は、SCと国際ブランドのカードネットワークが補完し合う可能性を示す。カードネットワーク側は、加盟店の仕組みを変えずに、SCを清算原資とする利用者を取り込める。
一方、銀行業界においては、顧客接点を巡る競争が生じ得る。銀行口座の資金をカードの支払いに充てる流れに、ウォレット内のSCを使う流れが加わるためだ。残高確認や資金移動の起点がウォレットへ移れば、銀行は一部の顧客接点を失う可能性がある。
カードネットワークが引き続き利用されても、その手前で顧客の資金を管理し、日々の利用を支える事業者は変わり得る。日本の金融機関にも、カード発行に加え、顧客がどこで資金を保有し、何に使うかという視点が求められる。
本人確認や資産の保全、規制への対応を前提に、資金の保有から送金、支払いまでの顧客体験にどう関与するか。レッドットペイの成長は、新たなデジタル決済手段の普及を左右する顧客接点の価値を問い掛けている。
Red Dot Technology Ltd.(レッドドット・テクノロジー)
主なサービス:ステーブルコイン清算に対応するカードやウォレットの提供
設 立:2023年
資本金額:─
代表者名:Michael Gao
主要株主:Lightspeed, HSG, Galaxy Ventures, DST Global Partners, Accel, Vertex Venturesなど
掲載号 /週刊金融財政事情 2026年10月20日号

山本 悠太 - やまもと ゆうた
東京大学文学部卒、HEC Paris MBA修了。日本郵政を経て、ベンチャーキャピタルHardware Clubの東京オフィス立ち上げ、第1号ファンド組成・投資業務に参画。18年GMOベンチャーパートナーズ入社。米国と欧州、東南アジア、インドにおける海外投資実行・支援を担当。