Portfolio Interviews 01 安易なピボットの先に正解はあるのか ── 背水の陣で顧客に向き合い続けたLayerX急成長の軌跡

( Profile )

株式会社LayerX 福島 良典 様

東京大学大学院工学系研究科卒。大学時代の専攻はコンピュータサイエンス、機械学習。 2012年大学院在学中に株式会社Gunosyを創業、代表取締役に就任し、創業よりおよそ2年半で東証マザーズに上場。後に東証一部に市場変更。 2018年にLayerXの代表取締役CEOに就任。 2012年度IPA未踏スーパークリエータ認定。2016年Forbes Asiaよりアジアを代表する「30歳未満」に選出。2017年言語処理学会で論文賞受賞(共著)。

株式会社LayerX

( Interviewer )

川野 真太郎 Shintaro Kawano

バリューアップスペシャリスト / 投資担当

起業されたとき、「世界のどこの、どんな問題を直したくて、何がいけるはず!」と確信してスタートされましたか。また、そのアイディアは何だったのでしょうか。

LayerX創業当初のアイディアは、今やっていることとは全然違っていて、銀行等のシステムをもっとモダンにしたいなと考えていました。金融機関のシステムは社会的に重要でありながら、この世で最も変えることが難しいシステムの一つです。まずそこからブロックチェーンという技術を活用するシステム会社として、いわゆるSIerからのリプレイスを狙っていこうというアイディアでした。それはもう、後に大空振りすることになるわけですが。

はじめはGunosyの新規事業としてスタートして、銀行や証券の仕組みの裏側で、ブロックチェーンが来てるからそこで何かしら一旗揚げればチャンスあるんじゃないかな、くらいの解像度でした。そのぐらいの解像度のレベルだったので、上場企業としては取れるリスクを超えているという判断で当時の経営陣と話し合いました。それで、(Gunosyからの)MBOというかたちを取りました。

上場したままその事業を行うには解像度が低かったため、MBO実施し未上場会社として新たなスタートを切られたと。それも「空振りだった」と仰いましたが、最初の確信が外れてしまったのはなぜでしょうか。

原因はいくつか考えられますが、一番大きかったのは自分たちだけで変えられるビジネスではなかった、という点だと思います。現実と当初想定していた事業計画にはだいぶ乖離があったなと。もう一つは、ブロックチェーンの特性上、複数社が一つのシステムに乗らなければメリットが出づらいのですが、その難易度たるや、日本中の地方銀行とメガバンクが全て乗る銀行の決済ネットワークをつくるだとか、そういうレベルの話になってしまう。主要な銀行全行に乗ってもらえないと成立しないというそのビジネス的な難しさを、自分たちの未熟さもありますがどうしても突破できなかった。

しかし結構な規模の売上がありましたよね。それを捨てる覚悟、普通はできないと思います。その時点で社員数は、何名ぐらいでしたか。

そのときは、30名ぐらいですね。

30名、、いきなりのピボットは容易なものではなかったと思いますが、どのような意思決定だったのでしょうか。

当時、僕らを信頼してジャフコさんらが出してくださった資金が30億円ほどあったので、0リセットをしても、30名の組織であれば、なんとか3回はフルスイングできるだろうと思いました。もう一つは、ブロックチェーンコンサルで、ある程度稼げてはいたのですが、正直将来性は危ういなとも感じていました。不況がきたら一瞬で吹っ飛ぶよねと。このビジネスの限界を考えていた時、取締役の手嶋さんが、「これはもうピボットした方がいいね」とスパッと客観的に言ってくださって。それで決断できたんです。

ちょうどその頃もうバクラクというものが新プロダクトとしてあったと。

いや、なくて(笑)。ブロックチェーン事業をやめること前提で、その後、こじつけでもいいから学んだものを活かしてやっぱりソフトウェア作ろうよくらいの考えでした。

それは珍しいですね。ピボット成功事例としては、既存の仕組みがピボット先の事業の基となっていることが多いですよね。社内ツールがビッグビジネスになった、Slack、Chatworkもその例です。

はい、バクラクの原型は、ある地方銀行とのコンサルプロジェクトの中で、アイディアとして出てきました。ただ、そのプロジェクトの中では、実際にプロダクトを開発するまでには至りませんでした。そこでこれまでの反省から、クライアントを説得してやるよりも、プロダクトを自分たちで作っちゃえばいいじゃんっていうのがバクラクの原型でした。

なるほど。その意思決定は福島さんの決断なのか みんなで相談して決めたのかどちらでしょうか。

もう、決め、です。みんなには、これで心中するから、と。

社内でも、結構みんなびっくりしますよね。

僕らは週次でオールハンズMTGをやっていて、そこで日頃からお互いに腹の中をさらけ出して、対話を積み重ねていて。僕からも、今の課題や感じていること、考えていることも全て、ちゃんと丁寧に話していました。ブロックチェーンを撤退するときも、今回売上も全部捨ててもうプロダクトの会社にするから、というところまで。なので、全社員が状況をわかってくれていたのと、多分僕よりも現場でコンサルに出ているメンバーの方が、このまま続けるのはきついな、と感じていたので。

当時、今のMDM(三井物産デジタル・アセットマネジメント:三井物産らとの共同事業)が結構順調に進んでいたんですよ。まず、そこに半分の人数を出向させました。残ったメンバーのうち5人で、既存の受託案件の対応をやろうと。そして残り10人で新しいプロダクトを作るぞとなりました。最初はERP系の別のプロダクト案もありましたが、最終的にはバクラク一本になりました。

いよいよのバクラクですね。その後、そう簡単にグロースが始まらなかったようですが、暗中模索のときはどのような感じでしたか?

最初の方は本当に売れませんでした。売れなくて、みんな自信がない。実は「1000社導入」という目標を立てたとき、月の受注は「0件」でした。売り始めて2、3か月の頃です。結構、みんなの心は折れかかっていて、社長何言ってんだみたいな感じだったんですけど。

2021年のローンチから2年経った今日、初期の目標である1000社をすでに突破(※2023年12月現在、7000社を突破)しているんですが、それまではもうまさに、正解にするぞ。正解を選ぶんじゃなくて正解にするぞ。みたいな。僕らはもうピボットしたんだと。コンサルやって駄目で、ERPみたいなものをやろうとして駄目で、ここで諦めたら何も残らないからと。

似た領域の他社は伸びている。つまり僕らのやり方が間違ってる。だから、何とかして正解にしようよと、大号令をかけました。四の五の言わず顧客のとこ行ってこようと。そこから、ちゃんと売れ始めたんです。

これまで粘りが足りなかった。気づかぬうちに、僕らにはピボット癖がついちゃっていたというか。

どうやって「正解にした」のでしょうか。

初めのうちは経理の方から、こんなのいらないよとか、無料でも使わないぐらいのことを言われて。でも、お客様の声を聞いて、改善できることは全部やるだけやろう、受注0件だとしても、今またピボットなんて何言ってんのって。それだけやっても売れなかったらそれはもう仕方ないよねと。

今ご評価いただいている僕らのプロダクトの良さって、基本的には、営業だけじゃなくエンジニアやPMもお客様と対話することから、ユーザーの理解が深まって、良いものを作れるっていうところなんですね。だから、エンジニアのトップの社員も自ら営業に行きます。自分で作って、自分で売ってくる。

それでフィードバックがすごく回るようになって。開発に対して顧客ニーズがすぐに反映されて、今のバクラクの評価に繋がっていきました。開発して1年後にはグロースが加速していきました。

開発開始の1年後にもうグロースが始まっているって、早いですよね。

回しているイテレーションの数で言うと相当でした。感覚的にはもう2~3年経ったかと思えるくらいの多数の手数を打ちました。

もう精神と時の部屋ですね、実際は1年なのに2~3年の時間が経ってると・・・。

最後に、これから起業される方々に向けて、何か一言挙げるとすると。

粘れ。ですね。
いろんな人がいろんな正しそうなこと言うじゃないですか。 しかし、やはり顧客と顧客のニーズのところにしか、答えは落ちていない。色々言われるけれど、粘ってそこに向き合う人がやはり強いかなと。

正解があるんじゃない、
正解にするんだ。


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