
※本記事は、2026年9月15日発行の『週刊金融財政事情』に掲載された連載「FinTech+」第117回を、同誌の許諾を得て再掲載しています。
「自営業者は毎日稼ぐ。だから、貯蓄も毎日できるべきだ」。インドのフィンテック企業Bachatt(バチャット)の創業者Anugrah Jain氏は、自社サービスの発想をこう説明する。インドでは決済や融資のデジタル化が急速に進み、SIP(積み立て投資)への月間拠出額は約5,000億円を超える。一方、その仕組みは、毎月決まった日に給与を受け取る会社員を前提としたものが多い。
商店主や個人事業主の収入は日々変動する。まとまった金額を毎月積み立てるのではなく、少額を毎日取り分けて投資に回せないか。2025年創業のバチャットは、この課題に着目した。
利用者は100ルピー(約170円)程度から日次の積立額を設定し、UPI(インドの即時決済基盤)の自動引き落としを通じて、インドステイト銀行やICICI銀行、Axis銀行など大手金融グループの運用する債券型・流動性投資信託に投資できる。積立額の変更や一時停止、引き出しも可能だ。
この仕組みを可能にしたのが、少額・高頻度の決済を日常に根付かせたUPIの普及である。これまで現金で受け取り、生活費や仕入れに消えていた資金の一部を、同じスマートフォン上で投資へ移せるようになった。これにより、決済インフラの上に資産形成への入り口を設けることで、一連のサービスを実現できた。
同社によると、25年5月のサービス開始から26年3月までに300万人超の利用者を獲得し、同年2月だけで200万件超の投資信託取引を処理した。現在は日々の積み立てをきっかけに、長期資産形成向けの商品にも領域を広げる。対象は、自営業者や商店主など約3億人の巨大な顧客層だ。
バチャットの本質は、顧客の所得の「額」ではなく「頻度」に金融体験を合わせた点にある。従来の月次積み立ては、給与という定期的なまとまった収入を前提に「月にいくら拠出するか」で設計されてきた。一方、同社は、日々の売上げや現金収入から「毎日いくらなら無理なく続けられるか」を起点に積立額を決める。会社員向けの月次SIPを自営業者にそのまま当てはめれば、引き落とし日にまとまった残高を確保できず、積み立てが途切れやすい。少額を日々取り分けることで、この摩擦を小さくした点に設計の妙がある。
UPIは、支払いのデジタル化を普及・定着させた。次に同じことが起きるのは、少額の余剰資金を日々貯蓄や投資へ回す習慣のデジタル化かもしれない。金融包摂の次の課題は、金融サービスへアクセスできるかだけではない。それぞれの生活や収支のリズムに合ったかたちで、使い続けられるかである。
Trusave Fintech Private Ltd.(トゥルーセイブ・フィンテック(通称:Bachatt/バチャット))
主なサービス:日次で少額を積み立てられる投資アプリの提供
創 立:2025年
資本金額:─
代表者名:Anugrah Jain
主要株主:Accel, Lightspeed, Info Edge Venturesなど
掲載号 /週刊金融財政事情 2026年9月15日号

山本 悠太 - やまもと ゆうた
東京大学文学部卒、HEC Paris MBA修了。日本郵政を経て、ベンチャーキャピタルHardware Clubの東京オフィス立ち上げ、第1号ファンド組成・投資業務に参画。18年GMOベンチャーパートナーズ入社。米国と欧州、東南アジア、インドにおける海外投資実行・支援を担当。