【FinTech+第116回】金利だけではない預金防衛策、貯蓄・寄付で選ばれる口座へ ―『週刊金融財政事情』掲載記事


 日本では「金利ある世界」の復活により、預金獲得競争が激化している。一方、米国ではより構造的な資金移動が進んでいる。過去5年間に銀行や信用組合からフィンテックの投資・預金口座へ移った資金は推計約510兆円に上り、地域金融機関からの流出も約22兆円に達する。
 デジタル銀行やフィンテックを主な決済口座とする消費者の割合も、2020年から24年にかけて、Z世代(1997~2012年頃生まれ)では11%から29%へ、ミレニアル世代(1981~1996年頃生まれ)では13%から29%へと上昇した。高金利商品への移動にとどまらず、給与受取や決済、貯蓄、投資といった日常の金融行動の起点が、デジタル事業者へ移り始めている。
 その対抗策として注目されるのが、19年創業の米「Spiral」(スパイラル)だ。銀行や信組向けに、デジタル口座でパーソナライズした貯蓄・寄付体験を行える基盤を提供し、預金獲得・定着を支援する。主要な銀行システム事業者と連携し、基幹システムを置き換えることなく、既存ブランドやアプリを維持したまま短期間で導入できる点も特長だ。クレジットカード決済時の端数を自動貯蓄へ回す機能や、目的別に積み立てる「セイビングス・センター」機能により、カード利用と預金の定着を促す。
 特に注目すべきなのは、「ギビング・センター」機能だ。利用者は地域団体や全国の非営利団体へ寄付でき、カード決済の端数を寄付へ回すこともできる。金融機関は地元団体の紹介や寄付キャンペーンを通じ、社会貢献を日常的な顧客体験へ変えられる。社会貢献と顧客定着を両立できる点に寄付機能の面白さがある。そして機能自体より、地域との接点を利用習慣に変える設計に本質がある。
 同社公表資料によると、利用開始後90日以内に、月間入金額が最大16%、カード取引量が最大31%、デジタル上のエンゲージメントが最大16%増加した。貯蓄や決済、社会貢献を一つの体験として設計することが、入金額と取引頻度の双方に寄与し得ることを示している。
 若年層との接点を失えば、将来の給与口座や決済口座を獲得できず、相続を契機に預金が地域外へ移る可能性もある。
 スパイラルの事例は、地域とのつながりを日常の金融行動へ組み込み、預金獲得や顧客定着に結び付けられる可能性を示す。預金防衛は金利競争だけではない。地域金融機関が持つ信頼やネットワークを、「選ばれる」デジタル体験へ変換できるかが問われている。

Spiral Financial, Inc.(スパイラル・フィナンシャル)
主なサービス:金融機関に向けた口座に組み込む自動貯蓄・寄付機能ツールの提供
設  立:2019年
資本金額:─
代表者名:Shawn Melamed
主要株主:Team8, Communitas Capital, Phoenix, Nidoco AB, MTVO, Euclidean Capital, Intuition Fundなど


掲載号 /週刊金融財政事情 2026年8月18日号

山本 悠太 - やまもと ゆうた
東京大学文学部卒、HEC Paris MBA修了。日本郵政を経て、ベンチャーキャピタルHardware Clubの東京オフィス立ち上げ、第1号ファンド組成・投資業務に参画。18年GMOベンチャーパートナーズ入社。米国と欧州、東南アジア、インドにおける海外投資実行・支援を担当。