【FinTech+第115回】拡大するインドの個人ローンを支えるAI債権回収サービス ―『週刊金融財政事情』掲載記事


 金融業界において重要でありながら語られにくい領域の一つが、「債権回収」である。回収率の向上は、収益性だけでなく、次に誰へ安心して貸せるかをも左右する。
 例えばインドでは、フィンテック企業による小口個人ローンの貸付額が、過去5年で5倍に拡大した。一方、貸倒率も上昇している。貸す技術が進んだ結果、次に「いかに健全な返済を促すか」が大きな課題となり、中央銀行による規制強化にもつながっている。
 インド発フィンテックのDPDzero(DPDゼロ)は、この回収業務をAI(人工知能)とデータ、人を組み合わせて再設計している。社名の意味は、「延滞日数(Days Past Due)をゼロに」だ。
 同社は、AI・データ・人による債権回収オペレーションを金融機関やフィンテック企業に提供し、回収成果に応じて収益を得ている。現在、30社以上に導入されており、毎月約240億円規模の回収対象債権額と200万件超の顧客対応を担い、2024年以降、売上げが6倍に成長している。
 創業者アナンス・シュロフCEOの言葉を借りれば、回収は、返済が遅れた借り手を「悪い顧客」として扱う仕事ではない。顧客を金融サービスの外に押し出すのではなく、再び使える状態に戻す、重要な仕事なのである。ポイントは、関係を壊さず、適切な方法で返済を促すことだ。
 同社のサービスは単なる督促の自動化ではない。音声AIやメッセージアプリ、訪問回収などを統合し、どの借り手に、いつ、どう接触すべきかを最適化する。AIが接触方針を判断し、人間の回収エージェントがより適切に対応する。人間を「スーパーエージェント化」するモデルである。
 課金体系はソフトウエア利用料ではなく、回収額にひも付く成果報酬型だ。金融機関にとっては、単にツールを導入するのではなく、回収率やコスト、顧客体験の改善を同時に狙える点に価値がある。
 回収は、AIを組み込めば済むほど単純ではない。ハラスメントやレピュテーションリスクが起きやすく、規制監督も強まっている。同社は規制要件を満たした人間の回収網とAIを組み合わせ、顧客保護と効率性の両立を狙う。
 共同創業者のシュロフ氏とランジット・BR氏は、金融インフラ大手Setu(セトゥ)で決済ネットワークの構築と拡大に関わった。金融インフラと技術、現場運用をつなぐ感覚が、この実装を可能にしている。
 DPDゼロが示すのは、AIフィンテックの主戦場がアプリやチャットボットだけではないということだ。金融の根幹にある泥臭い業務を再設計する企業こそが、AI時代の次のフィンテックになるのではないか。
(DPDゼロにはGMOベンチャーパートナーズも出資している)

DPDzero technologies Pvt Ltd.(DPDゼロ)
主なサービス: 金融機関に向けた債権回収を自動化・効率化するプラットフォーム提供
設  立 : 2022年
資本金額: ─
代表者名: Ananth Shroff、Ranjith B. R.
主要株主: Better Capital、Blume Ventures、GMO VenturePartners、SMBC Asia Rising Fund、India Quotient、Sinarmas Groupなど


掲載号 /週刊金融財政事情 2026年7月14日号

山本 悠太 - やまもと ゆうた
東京大学文学部卒、HEC Paris MBA修了。日本郵政を経て、ベンチャーキャピタルHardware Clubの東京オフィス立ち上げ、第1号ファンド組成・投資業務に参画。18年GMOベンチャーパートナーズ入社。米国と欧州、東南アジア、インドにおける海外投資実行・支援を担当。